【実践視点・現場視点】その仕事、「畳の上の水練」になっていませんか?『百年たっても後悔しない仕事のやり方』

■ 「成功体験」を捨て、常にゼロリセットせよ


私たちはつい、「前はこのやり方でうまくいったから」と、過去の成功パターンを使い回そうとします。
しかし著者は、それこそが失敗の入り口だと警鐘を鳴らします。

過去の成功は、その時のたまたまの条件(運やタイミング)が重なった結果に過ぎません。条件が変われば、同じやり方は通用しないのです。

重要なのは、過去のデータを盲信するのではなく、「条件が変われば、最適解も変わる」という事実を受け入れること。 毎回、「過去の成功体験をゼロにリセットして考える」ことだけが、変化の激しい時代において成功確率を高めると説いています。

■ 「畳の上の水練」で泳げる気になるな


本書の中で印象的な言葉は「畳の上の水練」という言葉です。

畳の上でいくら泳ぐフォームをきれいに練習しても、実際に水に入らなければ泳げるようにはなりません。

ビジネスにおける「水」とは、「お客様(市場)」のことです。 しかし、多くの組織では、社内の調整や、会議のための資料作り、内向きの理屈(畳の上の練習)ばかりに時間を費やしています。

「上司の顔色」ではなく「お客様」を見る。社内の常識が世間の非常識になっていないかを常に疑う。 シンプルですが、この「現場(海)に出る」という姿勢こそが、100年経っても変わらない商売の原理原則です。

■ 全てを得ようとするな、「トレードオフ」を知れ


仕事が遅い人、決められないリーダーに共通するのは「何かを捨てきれていない」ことです。

「速くて、安くて、品質が良くて、誰からも愛される案」など存在しません。

あちらを立てればこちらが立たず。この「トレードオフ(二律背反)」を受け入れ、何を取り、何を捨てるかを決めることこそが「決断」の本質です。

「全部頑張る」という思考停止をやめ、「何を捨てるか」を決める勇気を持つこと。それがリーダーの最大の仕事です。

■ 「教養」なき者に、良い仕事はできない


本書において著者は、小手先のスキル以上に「教養(リベラルアーツ)」の重要性を説いています。 ここで言う教養とは、単なる物知りになることではありません。「世界(横)と歴史(縦)」を知り、自分の頭で考えるための土台(OS)を作ることです。

歴史(古典): 人間の本質は数千年変わっていません。過去の失敗や成功のパターン(歴史)を知らないことは、地図を持たずに航海に出るようなものです。

世界(英語): グローバル化が進む今、世界の共通言語である「英語」ができなければ、情報の摂取量は圧倒的に少なくなります。それは「井の中の蛙」であることを意味します。

「英語なんて必要ない」「歴史なんて役に立たない」という言葉は、思考停止の言い訳に過ぎません。

広い世界を知り、歴史から学ぶ。 この分厚いインプットがあって初めて、目の前の仕事に対して「正しい判断」ができるのです。

正直に告白します。

タイトルを見た瞬間、「ああ、これは新入社員や20代の若手に向けた入門書だな」と高を括っていました。しかし、読み進めるうちにこれは若者向けの本ではなく、全年齢に関わる、極めて「太い」内容の本だと思いました。

むしろ、ある程度キャリアを積み、「自分の型」ができてしまった中堅やベテランこそ読むべきかもしれません。

なぜなら、「成功体験を捨ててゼロリセットする」ことや、「畳の上(社内)での振る舞い」が染み付いてしまっているのは、若手ではなく私たちの方だからです。

年齢を重ねていくにつれて、この「原理原則」を改めて考えてもいいのではないでしょうか。

少し話はそれますが「畳の上の水練」ということわざを使うあたりがこの著者である出口氏らしさだなと思います。一般の方だと「机上の空論」と使うところでしょう。
何か、バタバタとしている絵が思い浮かびませんか?私はこの言葉を見て「現場で揉まれて、現場で色んな経験をされた方なんだろうな」と思いました。

著者は沢山の書籍を書かれていますが、抽象的な話だけでなく具体的な話が多く読みやすいものが多くあります。しかし、本書を境に著者の本の濃度は若干下がります。重複する内容がこのあたりから増えてきます。

それだけビジネスにおいて、本質的なこと、芯の部分は、太い一本の幹でできているのだろうと捉えることもできるでしょう。

本書に書かれているのは、派手なテクニックでも、すぐに役立つ裏技でもありません。

しかし、流行り廃りの激しいビジネス書の中で、タイトル通り「百年たっても後悔しない」普遍的な仕事のあり方が記されています。

・過去の栄光(成功体験)を捨てる。
・社内(畳の上)ではなく、お客様(水の中)を見る。
・そして、歴史と世界(教養)を学び続ける。

これさえ守れば、100年後の未来でも、あなたはきっと「良い仕事」ができるはずです。

迷える現代人のための、ひとつの「お守り」的一冊です。