×「なんで、こんなことができないの?」
〇「どうしたら、できるようになる?」
この本(谷原誠著『「いい質問」が人を動かす』)の帯には、ずばりコミュニケーションの本質を突く強烈な対比が刻まれています。
著者は、現役の弁護士です。
通常、弁護士といえば論理を武器に相手を追い詰める「尋問」「論破」のプロフェッショナルと思われがちです。しかし、交渉や和解の現場において、人を意のままに動かすために最も必要なのは、論破する力ではなく「質問する力」だと著者は説きます。
本書の核心は、「質問は、強制的に相手の脳のフォーカスを変える」という事実にあります。
人間の脳には、投げかけられた質問の答えを無意識に探してしまう習性(空白を埋めようとする本能)があります。
例えば、「なぜ失敗したのか?」と問われれば、脳は必死に「失敗の理由(言い訳)」を探し始めます。これは過去へのフォーカスです。
一方で、「どうすれば成功できたか?」と問われれば、脳は「解決策」を探し始めます。これは未来へのフォーカスです。
多くのリーダーやマネージャーが陥りがちなのは、相手を動かそうとして「説得」や「命令」をしてしまうこと。しかし、人は他人から押し付けられた結論には本能的に反発します。
本書が提示するメソッドは、命令するのではなく、「適切な質問」を投げることで、相手自らに気づかせ、結論を出させるという、極めて高度な心理誘導の技術です。
・否定的な質問を肯定的な質問へ変換する(「不満は何か」ではなく「どうなれば満足か」)
・相手の「思考の枠組み」を外す質問(「できるかできないか」ではなく「やるためには何が必要か」)
これらは単なる言葉遊びではなく、相手のポテンシャルを引き出し、組織のパフォーマンスを最大化するための論理的なアプローチです。感情論になりがちな人間関係のトラブルを、ロジカルな「技術」で解決に導くための実践的な教科書と言えるでしょう。
★店主の「道案内」ノート★
正直に告白すると、書店でこの本を見かけたとき、最初は手に取るのを躊躇しました。なぜかと言うと、 「質問力」や「〇〇力」といったタイトルは、ビジネス書の棚でよく見かける流行りのテーマであり、どこか似たり寄ったりの内容ではないかと高をくくっていたからです。
私は、本を買うときに著者欄を見るようにしているのですが、そこに「弁護士」とあるのを見て、認識が変わりました。 弁護士にとって「質問」とは、単なる円滑なコミュニケーションの手段ではなく、勝敗を決する「仕事道具」そのものです。法廷や交渉の場で磨き上げられたスキルであれば、そこには机上の空論ではない「リアリティ」があるはずだ――そう感じてページをめくりました。
実際に読んでみると、その期待は良い意味で裏切られました。 内容は極めて実践的で、法律的な話もあり、そもそも質問の仕方についても多くはありませんが例とともに語られていました。また、心理学の説明も展開されていますが、決して堅苦しくはありません。専門用語が羅列されるような「重さ」はなく、カフェでコーヒー片手に読み進められるほど、軽やかで読み心地の良い一冊です。
「質問」ひとつで、ここまで世界の見え方が変わるのか。 流行りのノウハウ本だと思って通り過ぎなくてよかった、と素直に思えた一冊でした。
まとめ
ビジネス書は、読み終わった瞬間がゴールではありません。そこに書かれていることを一つでも実行し、誰かとの関係が変わった時に初めて価値が生まれます。特に本書後半で語られている「心理学」はすぐ実践可能であり即時的に効果が出てくるものです。
本書は、写真のようにカジュアルにカバンに放り込んでおける軽快な一冊ですが、その中身は、停滞した現場の空気を一変させるだけの力を持っています。
まずは今日、誰かに投げかけるその一言を、「尋問」から「質問」に変えてみませんか?
どんな変化があったか、お聞かせくださいね。
