『教えるということ』――思考の「軸」を手に入れる一冊――

ビジネスと教育を貫く「最強の思考法」

■ タイトルに騙されてはいけない

『教えるということ』──このタイトルを見て、「ああ、教師や学校関係者のための本か」と思って通り過ぎてしまうのは、あまりに勿体ない。

本書は、「人を導くすべてのリーダー」が読むべき、一級のビジネス書です。

著者は、ライフネット生命の創業者であり、還暦を過ぎてから立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任した出口治明氏。ビジネスの最前線で戦ってきたリアリストでありながら、教育の現場で次世代を育成した稀有な人物です。

この二つの世界を知る出口氏だからこそ、本書には「ビジネスと教育の交差点」にある本質が描かれています。

■ 「空気」ではなく「事実」で語るための『縦・横・算数』

日本の組織(ビジネスでも学校でも)で最も厄介なのは、「空気を読む」ことや「前例踏襲」が優先される文化です。

「なんとなくそう思う」「昔からそうだから」……そんな曖昧な思考を断ち切り、誰にでも伝わる普遍的なロジックを組み立てるためのフレームワークが、本書で紹介される「縦・横・算数」です。

これが、あなたの思考を整理する強力な「軸」となります。

  1. 【縦(タテ)】歴史・時間軸
  • 「昔はどうだったのか?」
  • 人間の脳の構造は1万年前から変わっていません。過去の歴史を振り返れば、今の悩みに対するヒントや答えはすでに先人が出していることが多いのです。
  1. 【横(ヨコ)】世界・空間軸
  • 「世界ではどうなのか?」
  • 自分の会社や、日本という狭い世界だけの常識に囚われていないか。他社や海外の事例と比較することで、客観的な立ち位置を知る視点です。
  1. 【算数(サンスウ)】数字・データ軸
  • 「エビデンス(証拠)はあるか?」
  • 感情論や精神論ではなく、数字とファクト(事実)に基づいて議論する力。数字は世界共通言語であり、嘘をつきません。

■ 「尖った人」を育てる覚悟

これからの不透明な時代、上司の顔色を伺うイエスマンは不要です。必要なのは、イノベーションを起こせる「尖った人(ユニークな個)」。

そうした人材を育てるために、教える側(リーダー)自身が「縦・横・算数」で武装し、理不尽な精神論を捨て、論理的に「なぜ?」を語れるようになること。それが本書の最大のメッセージです。


★店主の「道案内」ノート★

恥ずかしながら数年前にこの著者の書籍を初めて手に取りました。とにかく歴史に詳しい方で、新しい歴史の見方をされる方で、経営者より歴史学者なのではと思うくらいでした。そんな著者だけに、明日から使える「思考のインストール」ができるのが本書でしょう。

この本を読み終えた後、具体的にどう行動を変えればいいのか。明日からの仕事や生活に「縦・横・算数」を組み込むための実践ガイドを僕なりに作ってみました。これは私が、この本からヒントを得て、実際にコンサルティングの現場で行っている思考でもあります。

アイデアに行き詰まったりした時(もちろん会議などで行き詰った時でもいいでしょう)、この3つの質問を投げかけてみてください。これだけで考えの質に変化が出ます。

  • (縦) 「このプロジェクトと似たような事例は、過去(自社の歴史や業界の歴史)になかったか?」
  • (横) 「競合他社や、あるいは全く別の業界では、この課題にどう対処しているか?」
  • (算数) 「『うまくいきそう』という感覚ではなく、それを裏付ける具体的な数字(予算・工数・予想リターン)はありますか?」

これが僕が本書で捉えた「縦・横・算数」の解釈です。おそらく別の方が読めばまた違った解釈があるかもしれません。気になる方はぜひ探してください。


■ まとめ

『教えるということ』は、単なるノウハウ本ではありません。

「感情や空気に流されず、ファクト(事実)を武器に自分の頭で考える」という、自立した大人になるための教科書です。

「ビジネス書」として読めばマネジメントの極意が、「教育書」として読めば人を育てる愛と論理が見えてくる。

鞄の中に一冊忍ばせておくだけで、あなたの思考の解像度を一気に高めてくれる、そんな羅針盤のような一冊になれば幸いです。