【ゴッドマザーの教え】巨大組織の「背骨」を作った、知られざる『イオンを創った女』の話。東海友和 著

■ 日本一の流通グループに隠された「もう一人の創業者」


私たちは普段、何気なく「イオン」を利用していますが、この巨大企業がどのようにして生まれたかを知る人は多くありません。

イオン(旧ジャスコ)の実質的な創業者は岡田卓也氏ですが、彼が「拡大・合併」というアクセルを全開に踏めたのは、その背後に「組織・人事」というハンドルとブレーキを完璧に操る一人の女性がいたからです。

その女性こそ、岡田氏の実姉であり、本書の主人公・小嶋千鶴子氏です。

本書は、単なるサクセスストーリーではありません。
合併を繰り返し、異なる文化が混ざり合うカオスのような組織を、一本の筋が通った「強い集団」へと変貌させた、壮絶な「人事と組織づくりの教科書」です。

■ 徹底した「実力主義」と「人間教育」


彼女が生きたのは、まだ男尊女卑や年功序列が当たり前だった昭和の時代です。しかし、小嶋氏は驚くべき先進性を持っていました。

・性別・学歴・国籍不問の実力主義
「ガラスの天井」などという言葉が意識される遥か昔に、彼女は「能力のある者は、男女問わず登用する」という人事制度を断行しました。
パートタイマーであっても優秀なら管理職にする。その代わり、ダメなものはダメと厳しく律する。その公正さが、働く人々の熱狂を生みました。

・「店は客のためにある」という哲学の浸透
彼女は売り場の整理整頓から言葉遣いに至るまで、徹底的に厳しく指導しました。それは「お客様にとって快適か」という一点において妥協がなかったからです。
彼女にとって「教育」とは、スキルを教えることではなく、商人としての「心」を鍛えることでした。

■ 最強の「No.2」としての矜持


ベンチャー企業や中小企業が成長する過程で必ずぶつかるのが、「トップのビジョンに組織がついていけない」という壁です。

岡田卓也氏という稀代の戦略家に対し、小嶋千鶴子氏はそのビジョンを現実の仕組みに落とし込む実務家でした。

「夢を語るトップ」と「現実を固めるNo.2」。

この二つの車輪が噛み合った時、企業は爆発的な成長を遂げます。本書は、経営者だけでなく、組織を支える参謀役やマネージャーにとっても、自らの役割を再定義するバイブルとなるでしょう。

「神は細部に宿る」と言いますが、この本を読むと「企業は人事に宿る」ということを痛感させられます。

私がこの本を手に取ったのは、ある経営者の方から「イオンには『人事の神様』がいたんだよ」と教えられたのがきっかけでした。

読んでみて、背筋が伸びる思いがしました。小嶋さんの言葉は、優しく聞こえるタイトルとは裏腹に、極めて厳しく、そして合理的です。

「人事とは、人を愛することだ」

そう彼女は言いますが、その愛は「甘やかすこと」ではありません。その人が持つ可能性を信じて、時にはあえて厳しい環境に置き、腐りかけた組織にはメスを入れる。

「嫌われることを恐れない愛」がそこにありました。

今の時代、コンプライアンスやハラスメントを気にするあまり、部下に対して「本気で向き合う」ことを避けてしまいがちです。しかし、本当に人が育つのは、小嶋さんのような「逃げない上司」がいた時なのかもしれません。

組織の人間関係に悩んだ時、私がこっそり読み返す「劇薬」のような一冊です。

しかし、この時代に生きた人の本はやはり読むべきだと思いました。なぜなら、本当の意味で苦労している、苦労しまくっているのです。
自分のビジネスや状況がどんなに大変でも、やはり昭和にたくましく生きた方たちと比べたら一切大変じゃない、そんな気持ちも含めて読んでおきたい本です。

『イオンを創った女』。

この本に書かれているのは、華々しい成功の裏にある、泥臭くも尊い「人づくり」の記録です。

AIやDXが叫ばれる現代だからこそ、「結局、動かすのは人間である」という原点に立ち返らせてくれます。

これから組織を大きくしたい人、あるいは「人がついてこない」と嘆くリーダーにとって、彼女の遺した言葉は、迷いを断ち切る鋭いナイフとなるはずです。

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