~忙殺される日常から抜け出すための、最も静かで強力な投資~
「最近、本を読んでいますか?」
そう聞かれたとき、私たちの口からつい出てしまう言い訳のナンバーワンはこれでしょう。
「読みたい気持ちはあるけれど、忙しくて時間がない」
仕事に家事、育児、そして絶え間なく通知が鳴るスマートフォン。現代を生きる私たちは、息つく暇もないほど何かに追われています。
本を開く時間なんて、寝る前の数分すら確保するのが難しいのが現実かもしれません。
しかし、そんな私たちの胸に鋭く突き刺さる言葉があります。
「本を読む時間がないのは、本を読まないからだ」
一見すると、禅問答か、あるいは意地悪ななぞなぞのように聞こえます。
「時間がないから読めないと言っているのに、読まないから時間がないとはどういうことか?」と、少しムッとする方もいるかもしれません。
この言葉は、オーストラリア出身の著述家であり、優れた経営コンサルタントでもあるマシュー・ケリー(Matthew Kelly)の著書『リズム―自分らしく生きるための毎日の習慣』(原題:The Rhythm of Life)に由来する考え方であり、今では数々のビジネス書、自己啓発書にて書かれている言葉です。
もし今、あなたが「時間がなくて焦っている」「どれだけ働いても楽にならない」と感じているのなら、この言葉には、その悪循環を断ち切るための重要な鍵が隠されています。
なぜなら、この言葉は単なる読書のススメではなく、私たちの人生における「時間の投資対効果(ROI)」の本質を突いているからです。
なんだか人生にROIを言い出すと楽しめないようで少し抵抗がないわけではないのですが笑
1. 「時間がない」の正体と、逆転の発想
私たちは通常、時間と読書の関係を次のように捉えています。
・一般的な思考:
時間(余裕)がある→余った時間で本を読む
この式では、読書はあくまで「消費活動」や「趣味」に分類されます。
生活の必需品ではなく、余裕があるときだけ許される贅沢品という位置づけです。
しかし、マシュー・ケリーが提唱する視点は、この矢印を逆転させます。
・この言葉の思考:
本を読む→効率と判断力が上がる→時間(余裕)が生まれる
つまり、読書を「時間の消費」ではなく、「時間を生み出すための投資」と捉えるのです。
「本を読まないから時間がない」という指摘が意味するのは、
「本を読まないことによって、知識や知恵のアップデートが止まり、非効率なやり方を続けてしまったり、同じような問題で悩み続けてしまったりしている。その結果として、いつまでも忙しい状態から抜け出せないのだ」
という、耳の痛い真実です。
これは、ビジネスにおける「設備投資」に似ています。
古くて性能の悪い機械を使い続けていれば、生産性は上がらず、残業ばかりが増えます。
新しい機械(知識・知恵)を導入するには、一時的にコスト(読書時間)がかかりますが、導入後は生産性が劇的に向上し、結果として時間は余るようになるのです。
2. なぜ「読まないと時間がない」のか? 3つのロジック
では、具体的に読書はどのようにして私たちの時間を増やしてくれるのでしょうか。
そのメカニズムは大きく分けて3つあります。
① 「他人の経験」を買って、ショートカットする
人生は短く(信じたくはありませんが涙)、すべての失敗を自分で経験している時間はありません。
しかし、本には先人たちが一生をかけて得た「成功法則」や、血の滲むような思いをして学んだ「失敗の回避法」が凝縮されています。
例えば、人間関係で悩んでいるとします。
本を読まなければ、あなたは手探りで相手とぶつかり、傷つき、数ヶ月、あるいは数年かけて解決策を見出すかもしれません。
しかし、心理学の名著や、人間関係論の古典を一冊読めば、そこには過去の天才たちが導き出した「答え」や「ヒント」が既に書かれています。
1,500円程度の書籍代と数時間の読書時間は、あなたが数ヶ月間悩み続け、試行錯誤するはずだった時間を「ショートカット」させてくれるのです。
自分でゼロから車輪を再発明する必要はありません。巨人の肩に乗ることで、私たちは最小限の労力で目的地にたどり着くことができます。
② 「優先順位」が見え、無駄な行動が消える
現代人が忙しい最大の理由は「やることが多すぎる」ことではなく、「やらなくていいことまでやっている」ことにあります。
情報過多の時代において、何が重要で何が不要かを見極める力(選球眼)がないと、あらゆるボールに手を出して疲弊してしまいます。
良質な本を読むことは、思考の整理整頓を行うことと同じです。
著者の体系立てられた論理に触れることで、自分の頭の中にあるモヤモヤとした思考が構造化されます。
「今、自分が集中すべきことはこれだ」「この作業は実は不要だった」という判断基準が明確になれば、無駄な行動が削ぎ落とされ、驚くほど時間が生まれます。
読書をしない状態というのは、地図を持たずに森の中を走り回っているようなものです。
どれだけ速く走っても(忙しくしても)、目的地には着きません。読書という地図を手に入れて初めて、最短ルートが見えてくるのです。
③ 「精神的な余裕」がパフォーマンスを最大化する
「忙しい」という字は「心を亡くす」と書きますが、メンタルが疲弊している状態では、仕事のパフォーマンスも生活の質も著しく低下します。1時間で終わる仕事に3時間かかってしまう、イライラして家族と喧嘩をしてしまい、その仲直りに時間がかかる……。余裕のなさは、さらなる時間の浪費を生みます。
読書、特に自分の知的好奇心を満たす本や、心を動かす小説を読むことは、脳にとって最高のリフレッシュになります。
SNSの断片的な情報は脳を興奮させ疲労させますが、本の世界に没頭する「深い集中」は、マインドフルネス(瞑想)に近いリラックス効果をもたらします。
一度立ち止まって本を読むことで、心に「余白」が生まれます。その余白が、結果として集中力を高め、その後の時間の密度を濃くしてくれるのです。
3. 「斧を研ぐ」時間を恐れない
『7つの習慣』の著者スティーブン・R・コヴィー博士も、「刃を研ぐ」ことの重要性を説いています。
ある木こりが、必死に汗を流して木を切っていました。しかし、のこぎりの刃はボロボロで、なかなか木は切れません。通りかかった旅人が「少し手を休めて、のこぎりの刃を研いだらどうですか? そのほうがずっと早く切れますよ」と声をかけました。
すると木こりは、イライラしながらこう答えたのです。
「刃を研ぐ? バカを言うな。俺は木を切るのに忙しくて、そんな暇はないんだ!」
「本を読む時間がないのは、本を読まないからだ」という言葉は、まさにこの木こりの寓話を指しています。
私たちは忙しさに追われるあまり、自分の「知性」や「感性」という名の刃を研ぐことを後回しにしていないでしょうか。切れ味の悪い刃で、力任せに日常を切り拓こうとしていないでしょうか。
忙しい時こそ、あえて立ち止まり、本を開く。それは決して現実逃避でも、時間の浪費でもありません。
それは、明日からの戦いをより有利に、より賢く進めるための、最も戦略的な「準備」なのです。
4. 1日5分、ページを開くことから始めよう
そうはいっても、いきなり「毎日1時間読書しよう」と決意する必要はありません。高い目標は、逆に挫折の原因になります。
まずは「1日5分」、あるいは「寝る前の数ページ」から始めてみてください。カバンの中に、あるいはスマートフォンのKindleアプリの中に、一冊だけ「お守り」のような本を入れておきましょう。
通勤電車の中、待ち合わせの前の数分間、お湯が沸くまでの少しの間。
SNSをスクロールして他人の生活を覗き見る(←失礼な表現ですが笑)代わりに、本を開いてみてください。
その数分間の積み重ねが、やがてあなたの思考を変え、行動を変え、そして最終的には「時間がない」と嘆いていた日常を変えていくはずです。
本を読むことは、自分自身を大切にすることです。
自分の未来に期待し、自分という人間に投資することです。
「本を読む時間がないのは、本を読まないからだ」
このパラドックスを乗り越えた先には、知恵と余裕に満ちた、新しい「自分の時間」が待っています。さあ、次はどの本を手に取りますか? その一冊が、あなたの時間を、そして人生を取り戻す最初の一歩になるかもしれません。
百冊堂からあなたにできること
このコラムが、少しでも「本を手に取ってみようかな」という気持ちのきっかけになれば幸いです。
もしご興味があれば、今のあなたの悩みや状況に合わせた「処方箋」のような本を数冊ピックアップしてご紹介します。何かお手伝いできることがあれば、お声がけください。
そして、成長した体験談などお伝えください。
コラムをお読みいただきありがとうございました。
